「ゆるい生活」 群ようこ
先日、タイ式マッサージを受けた際、施術師から「なんて、ガチガチな凝り方!」と驚かれた。特に痛くはないんですけどねぇ、と返すと、「凝り過ぎて、体が痛みを感じなくなっている」とのこと。どうやら、自分の身体のことは、自分が一番わかっているわけでもないらしい。
「病気じゃないから治ります」
本書は、群が重いめまいを覚え、友人の紹介で漢方薬局を訪れることから始まる。
先生は、私の症状をたずね、うなずきながら座っている私の体をスキャンするように眺め、
「大丈夫。病気じゃないから治ります」
・・・しかし病気じゃないとなったら、いったい何なのだ。
「体が冷えていて、余分な水分が溜まっていますね。代謝が落ちているから、それを外に排出できていないんです。胃が弱いのに過食気味になったりしてませんか。食物も最後には水分になるので、お茶や水だけではなく、気がつかないうちに過剰に水分を摂っているんですよ」[6頁]
一日中、座ったままの執筆活動。間食に、まんじゅう6個にコーヒー10杯。仕事の後の気晴らしの読書、編み物、縫い物。。。自分にとって、当たり前の習慣が身体を痛めつけ、重い症状が出るまで、身体の悲鳴に気づかない。
脳の声は大きく、身体の声は小さい。最前線の兵士の声は、参謀本部まで届かない。戦線が崩れるまで、参謀本部は、作戦の無謀さに気づけない。
「前は体が鈍かったんですよ」
群は、漢方薬・リンパマッサージ・生活習慣の改善を通じて、身体を「ニュートラル」な状態に戻し、症状を改善していくうち、面白いことに気づく。
体が極端に偏らず、その人なりのニュートラルな状態になるのは望ましいが、それに近づいていくにつれ、実はとても面倒くさい状態が伴うのに気がついた。体調が悪くなる前は、一度にまんじゅうを六個食べても、夏場に氷菓を思いっきり食べても、何ともなかった。それが漢方薬局にお世話になって体調が戻るにつれて、甘い物を前ほど欲しくなくなったこともあるけれど、自分の体によろしくないものを、許容範囲以上に食べると、後で必ずしっぺ返しがくるようになった。[80頁]
小さなミカン3個でトイレに駆け込み、出来合いのお惣菜で体が痒くなり、少し凍えただけで耳鳴りがする。
このくらいの量は、体調が悪くなる前には食べていて何でもなかったのに、ニュートラルな状態に戻りつつあると、体がささいなことにも抵抗してくるようになった。
「前は体が鈍かったんですよ。だから体によくないことをしても、何の反応も出なかったわけです。すぐに反応が出るのは、体としてはいいことなんですけどねえ」
先生は苦笑いをした。[81頁]
身体の声がよく聞こえるようになると、少しでも許容範囲を超えると、身体が反応して気づいてしまう。これはこれで難儀なことである。
「体にいいっていっていたから」
最後に気になったエピソードをひとつ。
話を聞くと、テレビでココアが体にいいといっていたので、それから毎日、ココアを飲み続けていたら、胃の調子が悪くなった。それでもテレビでいっていたのだからと、飲むのはやめなかった。
「あなたは胃が弱い体質なのだから、脂肪分が多いココアを毎日飲み続けたらだめですよって注意したら、それでも『体にいいっていっていたから』ってやめたくない雰囲気なの。テレビの影響は恐ろしいですよ。人の体質はそれぞれなのに、すべて正しいって思いこんでしまうのね」[59頁]
先生が「ココアがおいしくて飲んでいるなら仕方ないけど、毎日はダメ」と指導すると、女性は「おいしくないけど、薬と思って我慢して飲んでいた」と告白する。
「他の人にはいい影響があるかもしれないけれど、その人に合うかどうかはわからないですからね。・・・だいたい、これを飲んだり食べたりすれば、長生きできるものなんかないんです」[60頁]
生兵法はケガのもと。
独学と自分の感覚を過信しないこと。
それにしても、群のように、自分が信頼できる第三者を見つけられればよいのだけれど、実は、これが一番難しいんだよね。
本書で紹介されている漢方薬局につきましては、
所在地、連絡先などのご紹介はできませんのでご了承ください。[254頁]